疲れても疲れても果てがない労働から逃れるように海へ行く。海まで車で小一時間。運転は得意ではないが運転しているときはそれだけに集中できるからいい。10月の海は数ヶ月前に見た景色よりも彩度が低く、流木が砂浜を埋め尽くしていた。巨大な木の幹に虫取り網が絡んだものが波打ち際で存在感を放っていた。長さ1メートル2メートルくらいの木の枝が砂浜のあちこちに突き立てられて墓標みたいだった。墓、波、墓、波。東の空にはパラグライダーが飛んでいて、そこだけ時間の流れが違って見えた。波のそばを歩くと、視界の端で何かがサーッと動いた。立ち止まってよく見てみると、正体は灰色の蟹だった。海の反対側の山で鳥が騒いでいた。鳥が飛ぶ空のもっと手前で白い凧が飛んでいた。海の風のべたつきを感じながら10分くらい歩いた。西日を反射する波がまぶしく、まともに目が開かなかった。犬の足跡を見つけてうれしかった。

海に行けたことにほっとして帰った。途中でかい本屋に寄ろうと思ったが、地下駐車場がだるいのでまっすぐに帰った。ラジオで流れる洋楽の名前を頭のなかに留めて置けない。ひまわり畑の跡地には何もなかった。萎びて項垂れるひまわりを見るよりも何もないほうがよかった。